APDSの管理では症状の治療に重点が置かれます。これには免疫抑制療法、予防的抗菌薬、時には外科的介入など、APDSの免疫不全と免疫調節不全を管理するために必要なさまざまな治療が含まれます1-4。
抗菌剤
抗菌薬の予防的使用は患者の61~79%で報告されており、最も一般的な治療法は抗生物質の投与です。抗真菌薬は6~12%で、抗ウイルス薬は11%で使用が報告されています1-3。
抗菌薬の予防的投与はAPDSの臨床症状のごく一部でのみ有用である可能性があり、多くの患者で感染症の軽減に免疫グロブリン補充療法(IRT)も要します1,2,4。さらに、抗菌薬の予防投与はリンパ増殖などAPDSの免疫調節異常には効果がありません5。
免疫グロブリン補充療法(IRT)
IRTは副鼻腔・肺感染症や自己免疫性血球減少症に対して使用でき、APDS患者の63~89%で使用が報告されています。使用開始時の年齢中央値は5歳(分布幅は1歳~35歳)で、患者のおよそ半数が10歳になるまでにIRT療法を受けています1-4。
免疫グロブリンの静脈内投与(IVIg)または皮下投与(SCIg)は、APDS患者にみられる二次抗体欠損を補正することにより感染症を予防しますが、単独または併用で使用して必ずしも奏功するわけではありません2-5,7。IRTではヘルペスウイルス感染を予防できず、すべての副鼻腔・肺感染症に有効とは限りません5-7。また、気管支拡張症の進行を止めることはできず、リンパ増殖、自己免疫異常、リンパ腫などのAPDSの免疫調節異常に対しては有効ではありません5-8。
コルチコステロイド
副腎皮質ステロイドは、白血球、特にT細胞の活動と増殖を抑制することによって免疫調節異常を標的とし、リンパ球増殖と血球減少を抑制します2-5。APDS患者の46%が副腎皮質ステロイドの投与を受けており、そのうち87%で少なくとも部分的な短期効果を示していると報告されています1。コルチコステロイドの長期使用は、長期毒性により骨粗鬆症、糖尿病、高脂血症、高血圧や眼科的、皮膚科的問題を引き起こします。5 コルチコステロイドの長期使用は易感染性にもつながります。
リツキシマブ
リツキシマブはCD20+ B細胞を標的として破壊することから、B細胞の過剰活性化を抑制します1-4。リツキシマブはリンパ腫や自己免疫性疾患の治療(*)に使用されており、これはどちらもAPDS患者に多くみられます1-4。APDS患者におけるリツキシマブの使用では持続的なB細胞リンパ球減少が問題となります。さらに、リツキシマブは免疫不全に対処するものではなく、重篤な感染症のリスクを高める可能性があります。
*:本邦における適応疾患については、添付文書をご確認ください。
哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬
PI3Kシグナルの下流標的分子の一つであるmTORは、免疫応答の制御において重要な役割を担っています。mTOR阻害薬は、PI3Kδ1の下流でmTORの亢進を抑制し、非腫瘍性リンパ増殖性疾患の重症度を改善し、ナチュラルキラー細胞の機能を回復させます。APDS患者の11〜40%でmTOR阻害薬が投与され、中にはT細胞の表現型が正常範囲に回復した例も報告されています。4-9 例えば、mTOR阻害薬治療によりCD8+細胞と老化T細胞が減少し、ナイーブT細胞の割合が増加しました。
一部の症例では、mTOR阻害がリンパ増殖(リンパ節腫脹と肝脾腫)、感染症の頻度と重症度、気管支拡張症の進行(1例)など、APDSの複数の症状に対して有効であったことが報告されています。また、ステロイドの回避やIRTの減量につながった例もあります4。
mTOR阻害薬はすべてのAPDS患者に有効とは限りません。ESID APDSレジストリに登録されている26例を解析したところ、62%でmTOR阻害薬に対する反応が中等度から不良であったことが医師のvisual analog scoreから判明しました1。例えば、mTOR阻害薬治療は最適用量の同定、有害事象の管理、服薬コンプライアンスなどの課題から、開始と継続が困難な場合があります1-5。主たる課題として狭い治療指数が挙げられ、特に小児において投与量に影響を与えるほか、頭痛、食欲不振、口内炎、腎毒性、肝毒性などの有害事象のために治療が中止されることもあります。日本のAPDS診療ガイドラインでは、mTOR阻害薬による治療における治療終了後の再発や長期使用による副作用について記載されています(*)6。
*:本邦ではmTOR阻害薬はAPDSの適応症を有していません。
選択的p110δ阻害薬
近年、副作用が少なく、より高い効果を得られる治療薬として選択的p110δ阻害薬が注目されています。APDS患者6例を対象とした研究では、本薬剤(経口薬)を12週間投与した結果、全例でリンパ節腫脹と脾腫の縮小を認めました(それぞれ平均40%と39%)1。さらに、移行期B細胞と血清IgM値の正常化も観察されました。
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造血幹細胞移植(HSCT)は治癒につながる可能性があるが、リスクを伴う
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植(HSCT)は、APDS1およびAPDS2を有する患者の少数(9~13%)で治療に用いられてきました。HSCTはAPDSの臨床症状を改善し、免疫抑制またはIRTの中止を可能にする一方で、重篤な合併症や有害事象が頻発し、移植後2年間の死亡リスクが高いことがわかっています7-13。また、APDS患者ではHSCT後の生着不全や予定外のドナー細胞注入が必要となるリスクが高いことがわかっています。有害転帰は高頻度かつ重篤であり、複数回の移植、移植片対宿主病、臓器毒性、重篤な感染性合併症、および死亡が挙げられます。
APDS患者の91%がHSCT中、あるいはHSCT後に有害事象を経験した11,12
HSCTの成功率を向上させる上では、移植片が不安定になるリスクが高いこと、合併症が重大であること、HSCT前の感染症や自己免疫性疾患、リンパ増殖のコントロールが不十分であることなどが障壁となります13-15。
HSCTはPI3Kδ亢進による免疫システム以外の不全状態を是正しない可能性があることから、APDS患者は造血系が完全にドナー由来となった場合でもHSCT後早期の腎障害や慢性合併症に対する脆弱性が増加し、HSCT後も腎合併症のリスクが残る可能性があります13。
免疫再構成とドナーキメリズムの動態や移植片の不安定性を軽減する方法を解明し、表現型の完全な転換を経時的に評価するためには、より多くの患者でHSCT後の長期追跡調査を行う必要があります13。
国際共同の後ろ向き症例集積研究において、造血幹細胞移植を受けた APDS1あるいはAPDS2 患者 57 例(年齢中央値 13 歳、範囲 2~66 歳)の臨床転帰の調査が行われました。投薬レジメンおよび感染性によるHSCT後合併症の内訳は、(主に感染症による)移植関連死亡が14%、急性移植片対宿主病(GVHD)が 39%、慢性 GVHD が 16%、臓器毒性および感染症合併症が 14%でした。
成人のAPDS患者のほとんどは小児期に感染症を繰り返しており、多くはCVIDと診断を受けています。成人になってからAPDSの診断を受けた場合、家族計画が重要な検討事項となることから、早急なカウンセリングが必要です。患者の年齢が上がるにつれてHSCTに伴うリスクは増加するため、mTOR阻害薬による治療を受ける可能性が高くなります(*)。
*:本邦ではmTOR阻害薬はAPDSの適応症を有していません。